南鳥島のレアアース泥とは?50トン採取の成果と今後

目次

南鳥島のレアアース泥とは?まず結論から

南鳥島のレアアース泥とは、東京都に属する南鳥島の周辺海域、水深およそ6,000メートルの海底に積もっている泥のことです。この泥にはハイテク製品に欠かせないレアアース(希土類)が含まれており、日本の排他的経済水域(EEZ)の中にあります。

2026年7月24日、海洋研究開発機構(JAMSTEC)と内閣府のSIP海洋が、この泥を実際に引き揚げて分析した結果を公表しました。深海から採った泥がどんな中身だったのか、数字で明らかになったのは今回が初めてです。

回収量は約50トン。そのうちレアアース総量の約54%が、需要の高い「中重レアアース」でした。

2026年7月に何が発表されたのか

今回発表されたのは、2026年1月から2月にかけて行われた採鉱システム接続試験の分析結果です。試験そのものは2月の時点で成功が伝えられていましたが、泥の中身の詳しい分析には時間がかかっていました。

つまり7月の発表は「採れた」という話ではなく、「採れたものを調べたらこうだった」という続報にあたります。以下が主なポイントです。

  • 引き揚げた泥の量は約50トン(海水を除いた重量)
  • レアアース総量の約54%が中重レアアース
  • 有害物質・放射性物質は有意な数値が検出されなかった
  • 2027年2月に、より大規模な試験を予定している
南鳥島EEZの位置と水深6000mの海底からレアアース泥を引き揚げる仕組みの断面図解(フラット×インフォグラフィック/実在人物を描かない)

世界初の「連続揚泥」成功までの流れ

今回の試験で世界初とされたのは、深海の海底から泥を連続して船の上まで引き揚げた点です。単発で少量を採るのではなく、パイプでつないで途切れずに揚げ続けたことに意味があります。

試験には地球深部探査船「ちきゅう」が使われました。2026年1月30日に海底へ機器が着底し、2月1日の未明に船上でレアアース泥の回収が確認されています。

3日間の揚泥試験では、3か所のレアアース層から泥を回収できました。装置が途中で壊れず安定して動いたことも、あわせて確認されています。

「揚泥(ようでい)」は海底の泥を船上まで引き揚げること、「解泥(かいでい)」は固まった泥をほぐして吸い上げられる状態にすることを指します。

水深約6,000mからの採取はなぜ難しいのか

水深6,000メートルという深さは、陸上の感覚からするとかなり特殊な環境です。難しさの理由は主に3つあります。

深海採取が難しい3つの理由

(1) 水圧が非常に高く、機器が壊れやすい

(2) パイプが5,000メートル以上と長く、海流や船の揺れで負荷がかかる

(3) 泥と海水を混ぜて吸い上げるため、詰まらせずに流し続ける制御が要る

今回はパイプの長さが5,569メートルに達しました。報道では「水深約6,000メートル」と表記されることも多く、どちらも同じ試験を指しています。

分析でわかったこと:中重レアアースが約54%

今回の発表でもっとも注目されたのが、泥に含まれるレアアースの内訳です。レアアースは17種類の元素の総称で、どれが含まれているかによって価値が変わります。

回収した泥を分析したところ、レアアース総量の約54%がイットリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムなどの中重レアアースでした。

以下は2026年7月時点で公表されている、試験の主な数字です。

項目内容
試験の実施時期2026年1月〜2月
使用した船地球深部探査船「ちきゅう」
パイプの長さ5,569メートル
回収した泥の量約50トン(海水を除いた重量)
回収したレアアース層3か所
中重レアアースの割合レアアース総量の約54%
有害物質・放射性物質有意な数値は検出されず

イットリウム・ジスプロシウムは何に使われる?

中重レアアースが注目されるのは、産出量が少ないわりに使い道が広いためです。代表的な用途は次のとおりです。

  • ジスプロシウム:電気自動車や風力発電のモーターに使う強力な磁石の耐熱性を高める
  • イットリウム:LEDや蛍光体、耐熱セラミックスなどに使われる
  • ガドリニウム:光学ガラスや電子部品などに使われる

とくにジスプロシウムは、高温でも磁力が落ちにくい磁石をつくるために欠かせません。電動化が進むほど需要が伸びる元素と位置づけられています。

有害物質・放射性物質は検出されず

海底の泥を扱ううえで気になるのが安全性です。今回の分析では、有害物質と放射性物質のいずれについても有意な数値は検出されませんでした。

海外のレアアース鉱山では、精製の過程で出る放射性物質の処理が課題になってきました。今回の結果は、その懸念が小さい可能性を示すものとして受け止められています。

ただしこれは回収した約50トンの分析結果です。海域全体で同じ性質だと確定したわけではなく、今後の試験でさらに確認が進められる予定です。

なぜ今これが注目されるのか

レアアースは名前のとおり希少な資源ですが、地球上にまったく存在しないわけではありません。問題は、採掘と精製ができる国が限られている点にあります。

日本はレアアースの多くを輸入に頼っており、供給元が偏っていることが以前から課題とされてきました。自国のEEZ内で採れる見通しが立てば、この構図が変わる可能性があります。

レアアースの供給が偏っている現状

レアアースは採掘だけでなく、分離・精製の工程にも高い技術と設備が必要です。この工程を担える国が少ないため、供給網が細くなりやすい構造になっています。

こうした「特定の国に依存しやすい資源」をどう確保するかは、経済安全保障の文脈でも議論されてきたテーマです。半導体などの分野でも同じ考え方で制度整備が進んでいます。

南鳥島は東京都心からおよそ1,900キロ離れた、日本の最東端にあたる島です。この島があることで、周囲に広大なEEZが確保されています。

今後の予定:2027年の本格試験と2028年の総合評価

今回の試験はあくまで「引き揚げられるか」を確かめる段階でした。ここから先は、量とコストの検証に進む計画です。

STEP
2027年2月に大規模な試験を実施(予定)

約1か月にわたって採掘を行い、1日あたり350トンの回収能力を実証する計画です。

STEP
南鳥島で脱水し、本土へ輸送(予定)

引き揚げた泥を島で脱水したうえで本土へ運び、分離・精製・製錬のプロセス試験を行います。

STEP
2028年3月までに総合評価(予定)

技術面と採算面をあわせて評価し、国産レアアースの産業化に向けた判断材料をそろえます。

実用化までに残る課題(採算性・環境影響)

技術的に採れることと、事業として成り立つことは別の問題です。2026年7月時点で、実用化の時期は確定していません。

残る主な論点は次のとおりです。

  • 採算性:深海からの引き揚げと精製にかかる費用を、採れる量で見合わせられるか
  • 生産規模:1日350トンという目標を安定して続けられるか
  • 環境影響:海底の泥をかき出すことが深海の環境に与える影響をどう評価するか
  • 精製体制:引き揚げた泥から金属を取り出す工程を国内でどう整えるか

「2026年中に国産レアアースが流通する」といった話ではありません。現時点では2028年3月までの評価を待つ段階です。

よくある質問

南鳥島のレアアース泥はもう商業生産されているの?

いいえ。2026年7月時点では試験の段階です。2027年2月に大規模な試験を行い、2028年3月までに産業化に向けた総合評価を行う計画とされています。

「世界初」とは何が初めてなの?

水深約6,000メートルの海底から、レアアース泥を連続して船上まで引き揚げた点です。深海からの連続揚泥の成功例として発表されました。

中重レアアースと軽レアアースは何が違うの?

レアアース17元素のうち、原子番号が比較的大きいものを中重レアアースと呼びます。産出量が少なく、磁石の耐熱性向上など用途が限られる分野で使われるため、価値が高いとされています。

南鳥島には人が住んでいるの?

一般の住民は住んでいません。気象観測や海上自衛隊などの関係者が交代で滞在している島です。

まとめ

南鳥島のレアアース泥について、2026年7月時点でわかっていることを整理しました。

2026年1月〜2月の試験で約50トンの泥を回収し、そのレアアース総量の約54%が中重レアアースだと確認されました。有害物質・放射性物質は有意な数値が検出されていません。

次の節目は2027年2月に予定されている大規模試験です。1日350トンという回収能力を実証できるかどうかが、実用化を判断するうえでの焦点になります。

技術的な前進があった一方で、採算性や環境影響といった論点は残されたままです。続報が出た時点で、あらためて内容を確認していくのがよさそうです。

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