台風のニュースで「逆走台風」という言葉を見かけて、どういう意味だろうと気になった方も多いのではないでしょうか。
台風は日本付近では南から北東へ抜けていくのが一般的です。ところが、まれに東から西へと逆向きに進む台風が現れます。これが逆走台風と呼ばれるものです。
2026年8月には、台風15号がまさにこの動きを見せました。この記事では、逆走台風とは何か、なぜそんな進み方になるのか、そして過去にどんな例があったのかを、気象庁や気象各社が公表している情報をもとに整理します。
逆走台風とは?東から西へ進む台風のこと
逆走台風とは、日本付近で東から西へ向かって進む台風を指す通称です。気象庁が定めた正式な用語ではなく、報道や気象解説の場で使われる呼び方になります。
ふつうの台風は「南から北東」へ進む
台風は自分の力でぐんぐん進んでいるように見えますが、実際には周囲の風に流されて動いています。日本の南の海上では、太平洋高気圧のふちを回り込むように北上します。
そして日本付近まで来ると、上空を西から東へ吹く偏西風に乗り、進路を北東へ変えます。天気予報でおなじみの「放物線を描くコース」は、この2つの流れが組み合わさった結果です。
「逆走」と呼ばれるのはどんな動き?
逆走台風は、この定番コースから外れます。北東へ向かうはずのところで西寄りに進路を取り、関東や東北の沖から西日本方向へ移動していきます。
進む向きが通常と真逆になるため、報道では「逆走」という表現が使われます。台風が後ろ向きに進んでいるわけではなく、あくまで日本列島に対する移動方向が普段と逆になる、という意味です。
2026年の台風15号が「逆走台風」と呼ばれた理由
2026年8月に発生した台風15号(アジア名チャンホン)は、東北や関東の沖から西へ進むコースをたどり、逆走台風として大きく報じられました。
2026年8月11日時点の進路
気象庁の発表によると、台風15号は8月11日9時の時点で福島県いわき市の東およそ260kmの海上にあり、時速30kmで西北西へ進んでいました。
その後の予想進路は、11日夕方から夜にかけて関東または福島県付近に上陸し、12日朝には京都府舞鶴市付近へ。さらに熱帯低気圧に変わりながら13日には山陰沖へ抜ける見込みとされていました。太平洋側から日本海側へ、列島を西向きに横切る流れです。
寒冷渦のふちを回って西へ向かった
台風15号が西向きに進んだ最大の要因として挙げられているのが、寒冷渦(かんれいうず)の存在です。
寒冷渦とは、上空に冷たい空気を抱えた低気圧のことをいいます。低気圧の周りでは反時計回りの風が吹くため、その南側では東から西へ向かう流れが生まれます。
2026年8月の場合、房総沖へ南下してきた寒冷渦のふちに台風15号が入り込む形になりました。台風は寒冷渦の周りを回るように移動し、結果として進路を北西から西寄りへと変えていったと解説されています。

台風が逆走する3つの原因
逆走台風は毎回まったく同じ理由で起きるわけではありません。過去の事例を見ると、主に次の3つの要因が単独で、あるいは組み合わさって働いています。
- 寒冷渦との相互作用(渦のふちを回って西へ流される)
- 高気圧のブロッキング(北東へ抜ける道がふさがれる)
- 藤原の効果(2つの台風が互いに回り合う)
(1) 寒冷渦との相互作用
もっとも代表的なパターンです。台風の近くに寒冷渦があると、2つの渦が互いに影響し合い、台風が寒冷渦の周囲を回るような動きになります。
このとき台風が寒冷渦の南側に位置すると、反時計回りの流れに乗って西へ運ばれます。2026年の台風15号も、2018年の台風12号も、この寒冷渦が関わっていたと説明されています。
(2) 高気圧に行く手を阻まれる
台風が北東へ抜けていくには、その方向に道が開いている必要があります。ところが、朝鮮半島から北日本にかけて背の高い高気圧が居座ると、台風は壁にぶつかったように進めなくなります。
行き場を失った台風は、高気圧のふちに沿って動かざるを得ません。その結果、南や西へと押し返される形になります。夏の日本付近は太平洋高気圧とチベット高気圧が張り出すことがあり、この配置が異例の進路を生む土台になります。
(3) 藤原の効果(2つの台風が近づく)
台風が2つ同時に存在し、おおむね1000km以内まで接近すると、互いの渦が引き合って反時計回りに回るように動くことがあります。これを藤原の効果と呼びます。
回り合う位置関係によっては、一方の台風が通常とは逆の西向きに動かされることがあります。トリプル台風などが同時に発生している時期には、進路予想が特に難しくなる要因です。

台風が自分で進路を決めているのではなく、周りの気圧配置に振り回されている、とイメージすると分かりやすいですね。
過去の「逆走台風」の事例
東から西へ進む台風は、決してありふれた現象ではありません。ここ10年ほどで「逆走」として広く知られたのは、次の2例です。
| 台風 | 時期 | 特徴 |
|---|---|---|
| 平成30年台風12号(ジョンダリ) | 2018年7月 | 関東の沖合を西へ進み三重県に上陸。近畿・中国・九州へと西日本を横断 |
| 平成28年台風10号(ライオンロック) | 2016年8月 | 日本の南で西進した後にUターン。統計開始以来はじめて東北地方の太平洋側に上陸 |
| 2026年台風15号(チャンホン) | 2026年8月 | 寒冷渦のふちを回り、関東・東北方面から西日本方向へ進む予想となった |
2018年 台風12号 ― 東から西へ日本列島を横断
逆走台風という言葉が一般に広まったきっかけが、2018年(平成30年)の台風12号です。関東の沖合を西へ進んで三重県に上陸し、そのまま近畿、中国、九州へと西日本をなぞるように移動しました。
この異例の進路の背景には、朝鮮半島から北日本にかけて張り出した高気圧と、北海道付近から南下してきた寒冷渦がありました。高気圧に北東への道をふさがれた台風が、寒冷渦の作る反時計回りの風に乗って西へ流されたという構図です。
2016年 台風10号 ― Uターンして東北太平洋側に上陸
2016年(平成28年)の台風10号は、日本の南で数日間にわたって複雑な動きを見せました。いったん西寄りに進んだ後、進路を東寄りに変えてUターンし、最終的に北上して8月30日夕方に岩手県大船渡市付近へ上陸しています。
この台風は、1951年に気象庁が統計を取り始めて以来、はじめて東北地方の太平洋側に上陸した台風として記録されました。厳密には東から西へ縦断したわけではありませんが、定番コースから大きく外れた例としてよく引き合いに出されます。


逆走台風はなぜ予報が難しいのか
逆走台風のニュースでは、進路予想が二転三転することがあります。これは予報の精度が低いからではなく、この動き自体に予測を難しくする性質があるためです。
予報円が大きくなりやすい
台風の進路予想図に描かれる円は、台風の中心が入る可能性が高い範囲を示しています。周囲の流れがはっきりしているときは、この円は比較的小さくまとまります。
ところが寒冷渦や高気圧との駆け引きで動く台風は、少しの位置のずれが数百km単位の進路の違いにつながります。そのため予報円は大きくなり、更新のたびに予想が変わることも珍しくありません。
「慣れない方向」から雨や風が来る
もうひとつの特徴が、風雨の向きです。通常のコースであれば、その地域が経験してきた台風の風向きと大きくは変わりません。
一方、逆走台風では東側から接近してくるため、普段とは反対の方角から風が吹き込みます。また、台風の進行が遅い場合は同じ地域に長く雨雲がかかり続けることもあります。過去の台風の経験がそのまま当てはまらない点が、逆走台風の扱いにくさといえます。
逆走台風は、寒冷渦や高気圧という「周囲の事情」によって進路がねじ曲げられた台風のことです。珍しい現象ではありますが、しくみそのものは決して不思議なものではありません。最新の進路情報は気象庁の発表で確認しましょう。
逆走台風のよくある質問
- 逆走台風は気象庁の正式な用語ですか?
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いいえ。気象庁が定めた正式名称ではなく、東から西へ進む台風を分かりやすく表現するために報道などで使われる通称です。気象庁の資料では「複雑な動きをする台風」といった表現が使われます。
- 逆走台風はどれくらい珍しいのですか?
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日本付近を東から西へ横断する台風は、数年に一度あるかどうかという頻度です。広く知られた例としては2018年の台風12号があり、2026年の台風15号も同様の動きとして報じられました。
- 逆走する台風は勢力が強いのですか?
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進む向きと勢力の強さに直接の関係はありません。ただし動きが遅い場合は、同じ地域に雨や風の影響が長く続くことがあります。
- 寒冷渦と台風は何が違うのですか?
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台風は熱帯の海上で生まれ、暖かく湿った空気をエネルギー源とする低気圧です。一方の寒冷渦は上空に冷たい空気を抱えた低気圧で、成り立ちが異なります。
- 台風が2つ近づくとどうなりますか?
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おおむね1000km以内に接近すると、互いに影響し合って反時計回りに回るような動きをすることがあります。これが藤原の効果と呼ばれる現象で、進路予想が難しくなる要因のひとつです。

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